「誕生」という起源。

〈子供〉の誕生―アンシァン・レジーム期の子供と家族生活

〈子供〉の誕生―アンシァン・レジーム期の子供と家族生活

「<子供>の誕生」
歴史学者フィリップ・アリエス(フランス)による1960年の著作である。
この書によれば、中世ヨーロッパには教育も、子供時代という概念もなかった。さらに、子供を可愛り密接な家族像が出来上がるのは18世紀後半になってからだと明らかにした。近代家族

ここで重要なのは、当たり前だと思っていた事実を、起源を明らかにして歴史的に相対化することである。
歴史的な常識を批評するとき「誕生(論)」という方法が有効であり、普遍的な事物が逆に相対化されることを手に入れた。

ちなみに、今我々が普通に「住宅」と呼んでいるものは、正しくは「専用住宅」と呼ばれるものであって、本来「住むためだけに専用に作られた住宅」は近代産業革命時に発明された「工場」「駅舎」などで働く「従業員」の労働を確保するために作られた器といえる。つまり「<住宅>の誕生」である。それまでの「住むところ」は現在の「住宅」とイコールではなく、近代が生み出した産物・発明品と言える。

フィリップ・アリエス
1914年ロワール河畔のブロアで、カトリックで王党派的な家庭に生れる。ソルボンヌで歴史学を学び、アクション・フランセーズで活躍したこともあったが、1941-42年占領下のパリの国立図書館でマルク・ブロックやリュシアン・フェーヴルの著作や『アナル』誌を読む。家庭的な事情から大学の教職には就かず、熱帯農業にかんする調査機関で働くかたわら歴史研究を行なった。『フランス諸住民の歴史』(1948)、『歴史の時間』(1954、1986、杉山光信訳 みすず書房、1993)、『死を前にした人間』(1977、成瀬駒男訳 みすず書房、1990)などユニークな歴史研究を発表し、新しい歴史学の旗手として脚光をあびる。1979年に社会科学高等研究院(l’Ecole des Hautes Etudes en Sciences Sociales)の研究主任に迎えられる。自伝『日曜歴史家』(1980、成瀬駒男訳 みすず書房、1985)がある。1984年2月8日逝去。
みすず書房からの抜粋>

この書は、ヨーロッパ中世から18世紀にいたる期間の、日々の生活への注視・観察から、子供と家族についての〈その時代の感情〉を描く。子供は長い歴史の流れのなかで、独自のモラル・固有の感情をもつ実在として見られたことはなかった。〈子供〉の発見は近代の出来事であり、新しい家族の感情は、そこから芽生えた。

かつて子供は〈小さな大人〉として認知され、家族をこえて濃密な共同の場に属していた。そこは、生命感と多様性とにみちた場であり、ともに遊び、働き、学ぶ〈熱い環境〉であった。だが変化は兆していた。例えば、徒弟修業から学校化への進化は、子供への特別の配慮と、隔離への強い関心をもたらしたように。

著者アリエスは、4世紀にわたる図像記述や墓碑銘、日誌、書簡などの豊かな駆使によって、遊戯や服装の変遷、カリキュラムの発達の姿を描き出し、日常世界を支配している深い感情、mentalite の叙述に成功している。この書は「子供の歴史への画期的寄与にとどまらず、現代の歴史叙述の最良のもの」(P.Gay)、「この本がなかったなら、われわれの文化は、より貧しいものとなったであろう」(N.Y.Review of Books)と評された。